SAFULL+介護デイサービス

いつまでも慣れ親しんだ
ガスコンロで料理したい

セイフルプラスなら、施設利用者も安心・便利に、楽しく調理できます

社会の高齢化が進むと共に、身体の不自由な方や認知症の方など、加齢によって起こるさまざまな問題を抱えた高齢者が増えてきました。そんな方々やご家族のために、全国には多種多様な介護施設があります。福岡市にある『デイサービス桜』もそのひとつ。ここではいま、利用者が積極的に料理に参加するための、ある取り組みがなされていました。

「デイサービス」では、
家庭での生活も考慮に入れて接する

「食べることは、人にとって大切な“衣食住”の一つです。生きることと食べることを分けて考えることはできませんので、この先もしっかり食べて生きていくためにも、ここでは利用者の方にできるだけ料理してもらうようにしています」というのは、『デイサービス桜』の代表管理者である本野 光代さん。

『デイサービス桜』では、要介護3くらいまでの利用者には、無理のない範囲で実際に料理をしてもらっているとのこと。「家に帰ればご家族の方が心配して、包丁を持ったり火を使ったりすることをためらうと思うんです。でもここではあえて、できる人にはお料理をしてもらっています」という本野さん。「ここはデイサービスなので、利用者の方にとってはあくまでも家での生活が主体です。そのことも考慮に入れた生活機能訓練の一つとして、できる人にはご自分で料理していただいています」。

福岡市の中心地から少し離れた、自然に囲まれた場所に静かに佇む『デイサービス桜』

役割を取り上げるのでなくやり甲斐を持ってもらう

「例えば長年、家庭の台所を預かってきた主婦が、歳を取ったからといって急に料理することを取り上げられると、自分の役割や、やり甲斐を無くしてしまうように感じて、やはり寂しいと思うんです」という本野さん。“できることはやってもらう”という考えで、利用者の方にも役割を持たせることが大事だといいます。「この施設には敷地内に小さな畑があって、畑仕事が好きな方には収穫などを手伝ってもらっています。お料理も、身体に不自由のない認知症の方の場合には、積極的に手伝ってもらっています。うちの利用者はほとんどが女性なのですが、皆さんお料理は慣れ親しんできた作業なので、頭で考える前に手が勝手に動くようです」と笑います。

施設内での畑仕事の様子

作業の積み重ねが、脳に刺激を与える

「とはいえ、利用者が全員お料理好きというわけではありませんので、それぞれ役割を持って取り組んでもらっています」という本野さん。例えばお米を研ぐ人や、卵を割る人、魚の背開きをする人など、それぞれに興味のある工程を担当してもらっているとのこと。「日々の作業の積み重ねが、結果的に脳に刺激を与えることができ、認知症の進行予防にもつながるんじゃないかと思っています」という本野さんですが、一番の懸念が火を使った調理でした。

畑仕事もお料理も、できる人にはやってもらうという主義の本野さん

「お料理の好きな人は、やはり自分で鍋を持って味付けして調理したいですよね。焼くにしても煮るにしてもコンロは必須です。いまの高齢者は、時代的にもIHではなくガスに馴染みのある生活をしてきた方がほとんどですので、ガスコンロの方が使い慣れています。でも認知症の人に火を使わせるのは…そう考えるのも道理だと思います」。そんな本野さんの懸念を払拭したのは、一台のガスコンロとの出会いでした。

「福岡オレンジパートナーズ」の取り組み

「福岡市では『福岡オレンジパートナーズ』という取り組みを行っています。これは、企業・団体、医療・介護・福祉事業者、行政で構成したコンソーシアムで、認知症の方とそのご家族に、認知症について自主的に【知る・考える・つながる・行動する】ための組織なんです」というのは、福岡市福祉局の住田 篤さん。「私たちは、認知症になっても自分らしく生きるために何ができるかを考え、実際の取り組みにつなげていくことを目指しています」。

福岡オレンジパートナーズでは、これまでも園芸用品や歌劇鑑賞など、認知症フレンドリーな製品やサービスの開発を支援してきました。その中に、認知症の人にもやさしいガスコンロがありました。「製品やサービスを開発する上で、現場のリアルな声を取り入れるという目的で、『デイサービス桜』さんにもご協力頂いていたんです」とのことで、それが今回『SAFULL+』の誕生に結びつきました。

『福岡オレンジパートナーズ』の活動を推し進める福岡市福祉局の住田さん

メーカー目線ではなく、
ユーザー目線での製品開発

「当社が『SAFULL+』を開発したきっかけは、福岡市さんが実施されている認知症の方への取り組みに、西部ガスの河野さん(日経ビジネス記事参照)が参加されたことです」というのは、リンナイ 九州支社の伊集院 章氏。

そこで河野さんは、認知症の方がお料理する際に、ガスコンロの使い方に戸惑われている姿に衝撃を受けたとのこと。「その後河野さんから、私たちにご相談がありました」という伊集院氏。「西部ガスさんも私たちも、高齢者のガス離れが加速していくのではないかという危機感がありました。

『SAFULL+』開発に携わったリンナイ 九州支社の伊集院氏

実際に私の母もそうでしたが、高齢で認知症を発症していたこともあり物忘れが多くなりました。
同じような状況で、使い慣れたガスコンロから電気式コンロ(IH)にする方もいらっしゃいますが、使い方がわからず、操作を覚えるよりも、お料理そのものをあきらめるという声も聞き、そういった流れをなんとか防げないものかと考えました」。

そこでリンナイでは、高齢者や認知症の方が安心して使えるガスコンロの開発を検討することにしました。開発を進めるにあたり、住田さんに介護の現場で活躍されている本野さんをご紹介いただき、現場でのリアルな声をヒアリングするなど、メーカー目線ではなくユーザー目線での製品開発ができるよう、サポートしていただくようご協力いただきました。

製品開発時のモニタリングの様子

介護の現場を知るからこそできる、
利用者に寄り添った製品

「モニタリングでは、認知症の方やそのご家族にも参加いただき、私たちは試作品を実際に操作していただくお手伝いをしました」という本野さん。計4回にわたるモニタリングの結果はその都度リンナイ側に伝えられ、製品の開発に活かされていきました。

「例えば音声メッセージの内容や、声の高さと質、さらには話す速度なども、デイサービス桜さんでのモニタリングの結果を受けて変わっていきました」という伊集院氏。

認知症当事者が参加したモニタリングを繰り返し実施
行政とユーザー、そしてメーカー間でのコミュニケーションが、『SAFULL+』を生み出しました

「音声ガイドについては、最初は大きな声に驚く利用者の方もいましたし、何度も繰り返されるので“何回も言われんでも分かってる!”と怒る方もいました」と本野さんも当時を振り返ります。「調理を始めて15分経ったということをアナウンスしてくれるのですが、認知症で15分という単位が理解できなくなっている方もいて、違う表現の方がよいのではないかという声も出てきました。そんな声をまとめて住田さんにお伝えしたんです」とのこと。

行政とユーザーとメーカーが
タッグを組んで生まれた『SAFULL+』

「ユーザーの生の声をそのままお聞きしたかったので、言いにくい意見も全て伝えてもらえるようにお願いしました」という伊集院氏。

特に音声ガイドの細かな指摘には気付かされることが多かったといいます。またコンロの数も、当初は3口で検討されていましたが、実際に調理してもらうと、ユーザーの安全のためできるだけバーナーは遠くに置くべきだというご意見があり、2口にしたとのこと。さらにボタンの色も、認知症の方でも認識されやすい色を何色か試した結果、オレンジ色と緑色を採用することになりました。行政とメーカー、そしてユーザーがタッグを組んで試行錯誤した結果、『SAFULL+』は誕生しました。

調理器具がを安定して置ける大きなごとく。またコンロの炎を見えやすく黒色に統一
左コンロは緑色、右コンロはオレンジ色に。はっきりとした色使いで視認性を向上
2024年度グッドデザイン賞ベスト100
セイフルプラスの製品開発にご協力いただいた福岡市の取り組み「認知症の人にもやさしいデザイン」が、2024年度グッドデザイン賞ベスト100を受賞しました。

高齢者にも、
長く安心してお料理を楽しんでいただくために

そうして完成した『SAFULL+』は、さっそくデイサービス桜にも導入されました。実際に使用された方の様子を伺うと、「元々ガスコンロを使い慣れていた方が多いので、違和感なく調理されています。音声ガイドにも“コンロが何か言うとうよ”という方や“はいはい”という返事をする方もいて、楽しくお料理しているようです」という本野さん。「鍋を外すと安全のために警告音が鳴るのですが、“またピーピー鳴きようよ”という風に、コンロと対話するようにお料理している方もいますね」と笑います。

黒いごとくがガス火を見やすくし、オレンジのボタンと大きな表示が視認度を上げます

「『SAFULL+』は、認知症当事者や介助者の声を取り入れていますが、それだけでなく高齢者向けとして開発されたガスコンロです。認知症になったからではなく、早くから使用していただくことで、より長く継続してお料理を楽しんで頂けるのではないかと思います」という伊集院氏。「多くの女性はこれまで長い間台所を預かってきた主婦として、やはり高齢になってもお料理したいという思いがあるんじゃないかと思います」という本野さん。

「うちのように調理訓練を取り入れている高齢者施設はもちろん、認知症の方や後期高齢者がいるご家庭でも、この『SAFULL+』であれば、安心安全にお使いいただけるので、ぜひ導入されることをお勧めします」とのことでした。