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開発者・バイヤーが語る

無水調理鍋「Leggiero」の秘密

無水調理鍋なのに軽くて、しかも焦げ付きにくい。
スタイリッシュなデザインでそのままテーブルにも出せる。
無水調理鍋「Leggiero」のヒットの理由とものづくりの秘密を探るべく
極上の道具を知り尽くした「藤巻百貨店」創業者の中村亮代表とともに工場を尋ねた。

  • 聞く人

    藤巻百貨店

    中村 亮 代表
    日本のものづくり高級セレクトショップ
    「藤巻百貨店」創業者で運営会社caramo社長
  • 作った人

    リンナイ精機

    松本 和彦 社長
  • 作った人

    リンナイ 開発本部
    第二商品開発部 厨房機器設計室

    梅田 真由子 主事

シンプルで美しい佇まい。そして素材の味を引き出す無水調理が可能で、その上軽い。独自のセラミックコーティングは焦げ付きを防いで洗う時も簡単に汚れが落とせる──。

ガス調理機器を製造するリンナイが、キッチンを知り尽くしているからこそ生み出せた無水調理鍋「Leggiero」。その高い性能の秘密を探るべく、製造の現場を直撃取材した。取材をしたのは、日本中のものづくりの現場を歩き、本当に良いものだけを厳選して販売するウェブサイト「藤巻百貨店」の創業者、中村亮代表。道具を見極めるプロの忌憚ない意見を交えながら、開発者のLeggieroへの思いを聞いた。

リンナイの無水調理鍋Leggieroとは?

❶ 圧倒的な軽さ

「真空アルミダイカスト」成形と厳選したアルミ素材により、軽量かつ高密度な鍋の加工を実現。最薄部は3ミリと薄い鍋ながらも、鉄鋳物製鍋と変わらない保温性能です。重量は鉄鋳物製無水鍋の約半分。毎日使いたい、日常の即戦力になる鍋です。

❷ 均一で高精度

長年にわたる加工技術とロボット活用のノウハウを駆使して、均一で高精度な鍋づくりが可能に。鍋と蓋の精緻な噛み合わせが実現する水蒸気の蓋「ウォーターシール」が無水調理を実現。緻密に制御されたロボットが、均一で「剥がれにくい」コーティングを施しました。

❸ 焦げ付かないセラミックコーティング

特殊セラミックコーティングは剥がれにくく、かつスムーズな鍋肌に。カレーや煮物を温め直すとき、肉や魚、卵を炒めるときなど調理中の焦げ付きがほとんどありません。スポンジで優しく擦るだけで汚れが簡単に落とせ、調理のストレスが激減します。

シンプルで美しいことには
きちんとした理由がある

──リンナイの工場を見学されて、どんな感想を抱きましたか。

中村 Leggieroの製造工程は「鋳造」「表面加工」「塗装」という3つのプロセスで構成されていますが、良い意味で「手間を掛けすぎていない」と感じました。こうしたシンプルなものづくりが、良いものを生み出す秘訣かもしれませんね。 

松本 リンナイでは各プロセスで分担してものづくりを行っているので、社員各々が「それぞれの作業の中で良いものを作るぞ」という気持ちになりやすいんです。それも、商品の質の良さにつながっているんじゃないかなと。

中村 ロボットも働いていましたよね。最初は全部の作業をロボットが行っているのかと思ったけど、よくよく見ると社員の皆さんが頑張っていました。ロボットは人間の動きを真似ているんですか? 

松本 人間の動きを真似させることもありますが、どちらかというとロボットにしかできない動きをさせているイメージです。例えばLeggieroでは、塗装の厚みを均一にするために、内周と外周の距離の差を計算しながらスプレーガンを動かしていく必要があるので、こうした仕事をロボットに任せるようにしています。

中村 Leggieroの塗装はすごく薄くてムラがないように見えました。塗装が均一だと、お客さんにはどんなメリットがあるんですか?

梅田 一番は、鍋の耐久性が高まること。急激な温度差によってダメージを受けてしまうことを「ヒートショック」といいますが、鍋の劣化にもこのヒートショックが大きく関わっているんです。塗装の厚みが均一になることで、ヒートショックの影響が少なくなるんですよ。

松本 さらに、塗装ムラがないことで塗装がはがれにくくなり、劣化しにくくなるといった利点もあります。購入したてのような美しい状態で長期間使用していただくことが可能です。 

中村 あとは事務室から工場に至るまで、どこを取ってもゴミ1つ落ちていなくて、清潔なことにも驚きました。リンナイの皆さんにとっては当たり前のことかもしれませんが、ものづくりの現場において「清潔」は非常に重要な要素だと思うんです。 

松本 やはりキッチンで使用するものなので、きれいな場所で作りたいですよね。リンナイには「きれいな場所から良いものを」というDNAがある気がします。

Leggieroができるまで

Leggieroは国内工場で完全自社生産。ロボットを活用した精密な加工、そしてリンナイ基準を知り尽くしたプロの目による厳しい品質管理で、商品が出荷される

❶ 注湯

軽さ、密度、そして保温性など考慮しながら厳選した高品位アルミを670度の炉で溶かし、何度も試作を重ねた真空の金型に流し込む

❷ 鋳造

肉薄でも十分な強度が出せ、高い寸法精度を実現できる「真空ダイカスト」法と呼ばれる鋳造方法を採用。バリ取りなどの後加工で鍋が歪んだりしないよう何度も試作を重ねた上で最適な製造方法をロボットに覚えさせ、バラツキのない品質を実現

❸ 表面加工(研磨・ブラスト)

表面の美しさは、実は鍋の性能や耐久性に直結する重要な要素。3次元加工機で切削・研磨を行い、ブラスト処理で表面を均一に。ブラスト処理ではアルミナと呼ばれるセラミックスを吹き付けて塗装の密着度を高める

  • 表面加工前
  • 研磨加工後
  • ブラスト処理後
  • アルミナブラスト後
塗装前のLeggiero。徹底的に磨き込まれた陶器のような美しい表面を作る

❹ 塗装

傷付かず、焦げ付かず、剥がれない高い性能を実現するためのセラミック塗装は、均一な膜厚が命。塗装ロボットを活用してムラのないようにスプレーする。各工程では必ず専門家の目で品質をチェック。徹底した品質管理を行う

毎日の料理をワンランクアップ

──実際にLeggieroを手に取ってみて、どうでしたか。 

中村 とにかく見た目が美しいですよね。シンプルで飽きがこない魅力があり、美しいものを好む人にぴったりだと思いました。どんな方がターゲットなんですか? 

梅田 男女問わず、料理をするのが好きで、上質なものを好まれている方です。毎日の料理をワンランクアップしてくれるような商品を目指しました。 

中村 美しいだけじゃなくて、使い手のこともすごく考えて作られていますよね。おいしい料理ができるのは大前提として、軽くて非常に使いやすいなと感じました。

梅田 重量にはかなりこだわりました。Leggieroに採用した「高品位アルミ」は、鉄鋳物製に劣らない調理性能を持ちながらも、鉄鋳物製よりもずっと軽い素材なんです。高品位アルミ鋳物を使ったことで、鉄鋳物製の無水調理鍋の半分以下の重量に軽量化することができました。 

中村 確かに、鋳物鍋って普通はもっと重くて、ずっしりしているイメージがあります。かっこいい料理を作るときの「ここ一番の道具」みたいな感じもあって。それはそれで男ウケは良いんだけど、毎日使うという観点では、Leggieroのように軽くてデザインもシンプルな商品の方が良いのかもしれませんね。

梅田 Leggieroの企画時、チーム内で「鋳物の鍋ってすごく素敵だけど、重いよね」という話題があったんです。重いとそれだけで使う気持ちが削がれてしまうし、使用後に洗うのも一苦労。戸棚の奥にしまい込んでそれっきり、という人もいました。Leggieroは、毎日気軽に使えて、美しい用具で身も心もやわらげる豊かな食事体験をしていただきたいという思いで開発しました。 

もともとの技術を活かすことで
リンナイらしい鍋ができた

製造から出荷まですべての工程が効率よくつながっている

──実際に商品を作る際、企画と開発で意見がぶつかることはありましたか。 

梅田 「意見がぶつかる」とは少し違うかもしれませんが、「ウォーターシール効果」を高めるための調整は何度も協議を重ねました。「ウォーターシール」とは、鍋の中の蒸気がふたと本体の隙間にたまってできる「水の膜」のこと。このウォーターシールで鍋のふたと本体の接触面を覆うことで無水調理の機能が高まります。

松本 ウォーターシール効果を出すためにはふたと本体との隙間が大事なんです。ふたと本体との隙間の寸法が狙いの値になるよう、トライ&エラーを繰り返しました。

梅田 ほかにも大変だったのが、デザインと機能性の両立です。Leggieroのデザインでは直線美にこだわっているのですが、実際には鍋の底は丸みがある方が使いやすいんです。底が直角だと、素材を炒めたりお玉ですくったりするときに使いづらくなることが多いので、Leggieroのデザインではその点に配慮しました。直線的で美しい印象がありながらも、使いやすさを追求する。この点をいかに両立させていくかに、最後まで頭を悩ませましたね。

──Leggieroには、長年ガス機器の開発に携ってきたリンナイならではの技術も活かされているんだとか。

松本 リンナイ精機の小牧工場では、もともとガス機器に搭載するバルブなどを製作していました。そこで培った技術をLeggieroの鋳造工程にも活かしています。例えば、Leggieroに採用した「真空ダイカスト」は、「強い圧力を掛けながら、溶解した金属を金型に流し込む」という製造方法なのですが、真空ダイカストで作った金属は、収縮が少なく、気密性も高くなるんです。ガス漏れや圧力漏れに強いため、ガスバルブの製作に活用していました。これを応用することで、気密性が高く、鋳肌のきれいな鍋を作ることができました。

中村 真空ダイカストで鍋を作るのは珍しいことなんですか?

松本 他のメーカーさんはあまりやらないと思います。高い圧力を掛けるので金型も傷みやすいし、非常に高コストなんです。ただ、私達はこの方法に慣れていましたし、それ以外の方法を知らなかったので(笑)。 

梅田 リンナイの保有技術として今まで培ってきた真空ダイカスト技術は、「軽くて使いやすく美しい」Leggieroの特性に最適な製法と思っています。

中村 まさにリンナイならではの形なんですね。