祐真 朋樹スタイリスト/ファッション・ディレクター
スタイリストとして、日本のファッションシーンを常に牽引してきた祐真朋樹氏。服を選び、ライフスタイルを提案してきた審美眼のプロが見るG:LINEとは?黒の美しさ、用の美と、デザインの本質に話が及んだ。
選ぶことだと思います。
僕はファッションにずっと携わってきました。何かを着ることから始まり、ビジュアル化し、写真にしたり、時には文章を書いたり、さまざまなことをしながら、ファッションでこんな感動をしたということを、雑誌などのメディアを通して伝えてきました。
僕にとっては、その感動は選ぶ楽しみだったのかもしれません。チョイスすることは、ファッションにとって最も自由で楽しいことと、僕は捉えています。
いま、何を着ても自由で、何を着ても許される時代です。日本が特別なのかもしれませんが、そのような楽しみ方は、僕にとってとても自由で、楽しいこと。何者にでもなれそうな気がします。これを着るとこんな感じになるという楽しさが、ファッションにはあります。自分の気持ちを上げてくれ、明るくしてくれる力がファッションにはあると思います。
何でも単体では存在できません。そこで物を作り、そこで作ったものを食べるなど、いろいろなことがあり、一つのデザインになり、営みが生まれるわけです。デザインだけで見て、選ぶことにはなりません。
服もそうです。どの服を着てもいいわけではないし、なぜこれを着たいと思うのかもよく分からないのに、選んでしまうのです。それを着ることにより、新しい何かが始まる。人生を開くというと大げさですが、そのようなことが起きる。それが誰にでも通用することかというと、そうではありません。あなたもこれを着なさい、と言われても、同じことにはなりません。
極端な例えですが、江戸前のすし職人の名人がいて、その真横で、全く同じネタで全く同じ酢飯で握ったとしても、味が違うと思えてしまう。つまり、皆はそれぞれ違うのです。皆が違うので、選ぶものも違っていていいわけです。
一つのデザインを、皆が選んでも、等しく「こんな感じになる」ということは、まずありません。
実はそこが楽しみなんです。自分にしかできない面白さが絶対にあるので、それを見つけて楽しめばいいのです。
無機質でミニマムにまとまったデザイン。キッチンというよりは、むしろDJブースのようです。
眺めて美しいのはもちろんなのですが、キッチンというのは、肉の赤やきらめく魚の鱗、色とりどりの野菜や果物など、さまざまな色が載ってきます。この無機質な空間が、食材や道具に彩られてどんどん有機性を帯びてくる。その変化を体験できるのも面白いと思いました。
設備は黒子。主役はあくまでも食材であり、作る人であり、それを語らいながら食べる人。その意味でも、プラットフォームとしての役割を担うアイテムだと思います。
そうです。僕の好きな言葉に「用の美」があります。民芸運動家・柳宗悦さんが提唱したこの言葉は、眺めて美しいだけでは駄目で、使って美しいことが大事であるということです。
その通りなのですが、意外にそうではない、見て美しいだけのものも世の中には多くあり、氾濫しています。僕は眺めて美しいだけでも素晴らしいと感じますし、十分だとも思います。でも衣食住に関わる、日常的に使うものに用の美は必須でしょう。
雑誌『Casa BRUTUS』の僕の連載『ミラクルクローゼット』で先日、神戸の芦屋にあるフランク・ロイド・ライト設計の建築・ヨドコウ迎賓館で撮影しました。ロイドの作品はどうしてもデザイン優先に見えると感じていたのですが、実際に行ってみると、非常に住みやすいディテールが随所にありました。
ロイドの作品はオーガニック建築と言われています。有機的な建物とはどのようなことかというと、建築が自然の中へ溶け込んでいく普遍的なデザインだということ。建物の中に入るとそれがよく分かり、面白かったです。
デザイン性の強いものでも、自然とうまく共生でき、さらには自然の一部になりうるような建築であれば、人間も気持ちよく生きられるのではないでしょうか。
黒を基調としたデザインは、ファッションの世界でも非常に重要な一角を占めています。しかし、黒を基本としたコレクションを発表しているデザイナーも、どこかにビビッドな色や光り物などを差し色として添える。
基本は圧倒的に黒。でもそれだけだと表現が狭くなる。だから差し色というものが必要なわけですが、キッチンは否が応でも色が入ってくる場所ですよね。
G:LINEの黒は、どんな色でも許容する色だと思います。真っ赤なパプリカも、色鮮やかな小松菜も、熟したマンゴーも。有機的な色を許容している。ファッションとキッチンは、まったく違うようで実は近しい存在なのではないでしょうか。
1965年京都府生まれ。スタイリスト、ファッション・ディレクター。マガジンハウス「POPEYE」編集部で編集者としてのキャリアを始める。現在は「Casa BRUTUS」、「UOMO」、「GQ JAPAN」、「ENGINE」などのファッションページのディレクションのほか、アーティストやミュージシャンの広告・ステージの衣装スタイリングなどを手掛ける。パリとミラノのコレクション取材歴は30年近い。2021年、LANVIN COLLECTION MEN'Sのクリエイティブ・ディレクターに就任した。