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Makoto Tanijiri

谷尻 誠建築家

住宅や商業施設など様々な建築を設計してきた、サポーズデザインオフィスを主宰する谷尻誠氏。最近竣工した自身の別荘ではG:LINEを設えた。彼のクリエイティビティーと、どう調和しているのか。現地で聞いた。

まず、建築家としての
仕事観を教えてください。

私はよく所員に対し、ハイアマチュアが良いと話しています。プロフェッショナルになり過ぎてカスタマーの気持ちが分からなくなることもダメ。カスタマーになりきって美しいものをつくることができない、専門的な知識がないこともダメ。

対して、口うるさいカスタマーは嫌がられるようですが、最も大事な点を指摘してくれます。その視点を持ち、プロとして空間化することを意識しながら取り組んでいます。

私は旅行先でホテルを泊まり歩くのですが、空間を体験することが自分の設計に役立つことは大いにあると思っています。

他の建築家もそのような
意識の人が多いのでしょうか?

他の方のことは分かりません。私は建物をつくることがとても好きですが、建物は体験の一部でしかない。どのようなときに人が感動するのか、どのようなときに人がそこに行きたくなるのか。能動性を喚起する原理のようなものに興味があるので、それを自分なりにいつもメモしている気がします。

この別荘からはそんな意識が
伝わってきます。

ここは引き算の考え方です。エネルギーや設備をどこまで減らせるかぎりぎりのラインを議論して建てました。

便利とは無意識。言い換えると、考えない状態にすることです。その状態は、良いものや新しいものをつくるクリエイターにとって危険でしょう。

なぜG:LINEを別荘に
導入したのでしょうか?

カタログを見て直感的に美しく、設置することに決めました。ものがいくら良くても、空間に置かれたときに空間が美しくなければ、そのもの自体美しくならない。カタログも含めて空間として表現されていて、ものも美しく、空間も美しい状態をつくることができることが分かったんです。

機能的には、トップはミニマルなデザインで掃除しやすそう。一方、五徳は南部鉄器のような質感。良い違和感があります。

私たちも良い違和感をつくろうと話しています。人は、思いがけないときに感動する。あらゆるものが準備されていると予定通りに進行するため、そのときに感動はないと思います。新しいものと出会うためには、本来は会わないであろうものと出会わないかぎり、新しい化学反応は起きません。その違和感があることについて、私はとても共感します。

もの選びは初めに感覚的に好き、があって深掘りすると背景にストーリーがある、と分かる方がものに対する愛着が生まれると思います。自分が好きなものに囲まれていることがとても大事だと思うんです。良いものが何でも置かれている美意識より、自分が美しいと思うものに囲まれている美意識の方が日々の中でものを選ぶ目が養われていくはずなので、選択の誤りは減ると思います。

まずは感覚ですか。

そうです。私はよく旅先で石ころを拾って帰るんです。とてもきれい、と思うものは持って帰ることがあります。

資産価値はない。しかし、美しいことは機能です。美しいものがあると気持ちが豊かになるということは、十分に石に機能があるということ。逆に、いくらお金を払っても自分の気持ちが高ぶらないものは、自分にとっては機能がないものと同じです。

どこの誰が作ったのかは分からないけれど、使ってみると素晴らしい。これはどこが作ったものなのか?と調べてもらえるものの方が本質的だと思います。主張がないという主張がしっかりとできていることが最も良いことではないでしょうか。

空間づくりに対する美意識に
つながっていると感じました。
G:LINEが空間を豊かにしたと
感じますか?

ここにはほぼ毎週末来ていますが、いつも誰かが泊っていきます。ゆっくりと時間を過ごしながら、お酒や食事を楽しむ。皆がテーブルではなく、キッチンの周りでお酒を飲んでいることも多いですね。

自分で料理もするんですか?

今までは苦手なのでしていませんでしたが、実際にやってみると、同時にたくさんのことを考えなければいけません。料理もクリエイティブだと思います。難しいけれど面白いと思うようになりましたね。

谷尻 誠

1974年広島県生まれ。2000年建築設計事務所サポーズデザインオフィス設立。広島・東京の2ヵ所を拠点とし、インテリアから住宅、複合施設まで国内外合わせ多数のプロジェクトを手掛ける。「絶景不動産」「21世紀工務店」「tecture」「社外取締役」「toha」「DAICHI」をはじめとする多分野で起業家としても活躍。