-
予防医学研究者
公益財団法人Wellbeing for Planet Earth代表
石川 善樹 博士
(医学) -
リンナイ株式会社 営業本部
伊藤 敬一
営業企画部次長 -
日経BP総合研究所 SDGsラボ
丸尾 弘志
上席研究員
※所属・役職等はすべて
日経ビジネス掲載(2023年12月)当時のものです
業界最高のエネルギー効率の高さで注目されるリンナイのハイブリッド給湯器「ECO ONE」。その魅力は省エネ性能だけではない。実はECO ONEは、これまでのお湯の価値を大きく変え、生活に「ウェルビーイング」をもたらす点も魅力の1つとなっている。ECO ONEが実現するウェルビーイングとはどのようなものか。予防医学研究者で公益財団法人Wellbeing for Planet Earth代表理事の石川善樹氏と、リンナイの伊藤敬一・営業本部営業企画部次長に話を聞いた。
(聞き手=日経BP総合研究所 丸尾弘志 上席研究員)
まず、ウェルビーイングとは
そもそもどのような考え方なのでしょうか?
石川ウェルビーイングは、「よい状態(Positive State)」と定義され、大きく以下の2種類に分けられます。
① 客観的ウェルビーイング(健康、教育、収入など)
② 主観的ウェルビーイング(生活満足度など)
特に近年は世界全体の傾向として、1人あたりの実質GDPが伸びているにも関わらず、人々の主観的ウェルビーイングが悪化している傾向が見られます。これは20世紀にはなかった現象で、ゆえに主観的ウェルビーイングに大きな注目が集まっているのです。
世界中の多くの国が自国の政策運営にあたって、客観的な指標に加えて主観的ウェルビーイングも意識する方向に変化しています。日本でも2023年、岸田文雄首相の所信表明演説で「ウェルビーイングを拡げることで明日は今日よりも良くなると信じられる時代を実現する」と宣言しており、どうすれば国民一人ひとりが自身の生活をよいと思えることができるか、様々な議論がされています。
ただ、何をもって「よい状態」と思えるかは、多様性があるものです。主観的ウェルビーイングを議論する際は、何が『主観的ウェルビーイングの共通要因』なのかについて注目する必要があります。
その「共通要因」とは
具体的にどのようなものでしょうか?
毎日の入浴に
より豊かな体験価値を
伊藤ECO ONEは、少ないエネルギーで効率的にお湯を沸かせるだけではなく、いま先生がおっしゃったような「お湯の体験価値」を高めるさまざまな機能を持っているのが特徴です。
入浴という慣れ親しんだ習慣に、驚きと感動を提供できるのが「マイクロバブル入浴」。マイクロバブルとは直径約1μmから100μmの微細な気泡で、それを大量に含む真っ白なお湯が作れるお風呂です。お風呂が持つ温浴効果やお肌の洗浄効果・うるおい効果を高めるのはもちろんですが、さらに「お風呂がこれまで以上に楽しいものになった」という利用者の声を多くいただいています。
さら湯のお風呂よりも、リラックス感やくつろぎ感、幸せ感をより強く感じていただけたり、ワクワク感も高まるというデータもあり、精神的にも満たされる生活が送れる商品として人気が高まっています(下図参照)。
リラックス効果に関する
主観的評価の比較(VASスコア)
ワクワクや感動に関する
主観的評価の比較(VASスコア)
石川お湯とウェルビーイング、という観点で考えたときにまず思い浮かぶのは、お風呂でしょう。とりわけ私が注目しているのは、身体的な健康効果やリラックス効果にとどまらない「ルーティーンを作るための動機づけ」としてのお風呂の効果です。
個人の主観的ウェルビーイングを高めるためには、生活にルーティーンを設けることが重要です。例えば1日の終わりにお風呂に浸かって体を温めながら心身をリセットするという行為、また朝出かける前にシャワーを浴びてリフレッシュして、1日の活動のスイッチを入れるなど、生活のリズムを作る上で日本人にとってお湯は欠かせないものになっています。
こうした活動スイッチを入れるためには、マイクロバブル入浴のように、お風呂に入ることがもっと楽しくなる「より豊かな体験価値」を消費者に選択肢として提供することが大切で、これは主観的ウェルビーイングへの重要な貢献だと考えられます。
きれいも清潔も実現
ウルトラファインバブルで暮らしが変わる
丸尾マイクロバブルに加えて、近年は、それよりさらに小さくて目に見えない気泡の「ウルトラファインバブル」を含むお湯も生活のウェルビーイングを実現するための技術として注目されています。洗浄効果や水質の浄化、生物の成長促進、食品の風味向上など多彩な効果が期待されています。
日本発のウェルビーイングを実現する技術として、今国内のさまざまな企業がウルトラファインバブルに関する技術開発と特許の取得競争をしている状態です。
伊藤ウルトラファインバブルの技術はリンナイも注目しており、ウルトラファインバブルのお湯が家中の蛇口から出る機能を持つECO ONEのモデルもあります。水垢が付きにくい、お風呂のピンク汚れの原因菌を低減させる、排水管の汚れが残りにくい、と言った効果がすでに実証されています。洗剤などを使わなくても、お湯を流すだけで家の中の水回りをこれまで以上に清潔に保つことができるようになるというものです。
丸尾ウルトラファインバブルの泡は数週間から数カ月間は消えずに維持されると言われています。おそらく排水として家の外に出た後も、その洗浄効果が維持されることが期待できるでしょう。その場合は、排水管の設備維持やその後の水質浄化にも一役買うことになりそうです。
菌数(万個)
水垢付着量(さら湯の付着量を100として比較)
排水管汚れの残存率(%)
使えば使うほど社会に良い影響を与える
伊藤ウルトラファインバブルのお湯の構成要素は水道水を温めたお湯と空気のみ。環境負荷が掛からず、このお湯を使えば使うほど、このお湯が多くの家庭に普及すればするほど、周囲の環境にも良い影響を与える可能性があります。
石川このウルトラファインバブルのように「使えば使うほど良い影響が出て、それが実感できる」ということは、主観的ウェルビーイングを実現させるために、非常に重要な考え方です。
例えばいま、産業界の課題として真剣に議論されているのが「ヒューマン・ウェルビーイング」と「プラネタリー・ウェルビーイング」を両立させること。プラネタリーとは地球という意味です。人が快適に暮らせてウェルビーイングになったとしても、それが地球規模で見たときに、別のどこかやほかの誰かに皺寄せが行っては意味がありません。
あらゆる情報が透明化されている今の時代、自分の快適のために誰かが犠牲になるという事実はすぐに露呈します。そうしたネガティブな情報は、そのサービスを利用する人の心理的な負担となり、利用者の主観的なウェルビーイングを結果的に大きく低下させることになります。
多くの企業は、例えば環境に配慮した原料の調達方法を採用し、サプライチェーン全体の労働環境を改善し、さらにカーボンニュートラル対策などを実施したうえで、それらを積極的に開示することで消費に対する罪悪感を無くそうとしています。
リンナイのECO ONEは、太陽光発電と組み合わせればほぼ環境負荷なくお湯を沸かせ、いくらお湯を使っても罪悪感がない。さらに、そこにウルトラファインバブルを組み合わせると、このお湯を使えば使うほど、自分の家だけではなくその先の環境そのものを綺麗にすることができる。使うことがポジティブな社会貢献となり、バリューチェーンを超えたところで影響を与えるという意味で、新しい価値を提供できる製品なのではと感じています。
デザインの役割が
これまで以上に重要に
石川また、ウェルビーイングを実現する製品・サービスを提供する際には「真・善・美」という視点を持つと参考になると思います。利用者に「真」に役立つ性能・機能を持ち、その製品が存在することが倫理的にも「善」であることが必要なのは言うまでもないでしょう。さらに、その存在が「美」を備えているか、つまり「直感的に訴えかける美しさがあるか」もウェルビーイングを実現するには大切な要素となります。
この製品が好きだから使う、気に入っているから使う、さらにはそばに置いてその選択が正しかったと喜べる、そんな感情を呼び起こさせる「美のデザイン」という役割が、昨今の製品やサービスには、これまで以上に求められるのではないでしょうか。
ECO ONEやリンナイのそのほかの製品を拝見させていただいて、無駄のないシンプルな美しさを備えた外観、素材や質感への配慮がもたらす上質さ、スイッチやドアの心地よい操作感など、細部にまで行き届いた美意識を感じました。
伊藤リンナイではここ数年、空間に馴染んで使い勝手もよく、美しいインテリアの一部として愛されるプロダクトと、誰にでも使いやすく優しいインターフェースの両方を備える製品を目指し、商品開発に取り組んでいます。
実際にECO ONEをはじめこれまで数多くの製品がグッドデザイン賞を受賞しており、さらにこの2年はガス衣類乾燥機の乾太くんとECO ONEを含む給湯器用リモコンのフラッグシップモデルが、受賞製品の中でも特に高いデザイン性を持つ「ベスト100」の商品に連続で選ばれました。リンナイのデザインは専門家からも高く評価されています。
さらにウェルビーイングを突き詰めるために、
今後求められるものは何でしょうか?
石川「コミュニティ」という視点です。日本人は特に、社会関係領域におけるウェルビーイングが弱いです。これから先、シングル世帯が増加して人々は今まで以上に孤独な状態に晒されるリスクがあります。その中でお風呂は、かつて皆が銭湯に通っていた時代のように、逆に人と触れ合いながらリラックスするという役割が求められるようになっているかもしれません。
一人で自宅のお風呂に入りながらも、遠隔で気の合う仲間とリラックス時間を共有できる仕組みなど、一人でいるけれど一人ではない、というような新しいコミュニケーションの形が求められているのではないでしょうか。
石川近年の研究では、主観的ウェルビーイングを実現する数多くの要因が明らかになっています。例えば買い物や食事など、日常生活の様々な場面で「選択肢の中から自己決定できる」ということが主観的ウェルビーイングの共通要因であることが報告されています。
ECO ONEに関して言うと、例えば誰もが同じように蛇口をひねれば使える何の変哲もなかった「お湯」に、マイクロバブルバスやウルトラファインバブルのような様々な機能性を持つ「特別なお湯」という選択肢が生まれたと言う点は、日常を豊かにする上で非常に画期的なことだと思います。