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Yuko Nagayama

永山 祐子建築家

日本を代表する建築家の一人に数えられ、国境を超えて活躍する永山祐子氏。空間をデザインするプロフェッショナルとして、さらには子どもたちのために料理をする母親として、理想のキッチン空間を語ってくれた。

食や料理をテーマに
設計を考えることはありますか?

料理そのものというより、テーブルを囲んで、人が楽しい時を過ごす姿を想像して設計することはあります。その時にはテーブルのサイズや座る位置、料理が映えるサイズ感なども考えますね。

以前、料理が好きでデザインや家具にもこだわりがあるお施主さんの住宅を設計したことがありますが、その方は初めからG:LINEを入れたいと希望されていました。G:LINEはミニマルデザインが特徴なので、キッチン自体も削ぎ落としたデザインにして、G:LINEが主役として引き立つような空間にしました。

G:LINEは
「Less is more」「God is in the details」という建築界でもよく知られた
金言をテーマにデザインされました。
今日、改めて触れてみて、
どんな印象を持たれましたか?

オールブラックという色遣いも含めて、究極のミニマリズムが息づいていますね。ガスコンロのデジタル表示は、その“さり気なさ”がポイントだと思いますが、ミニマルだけれどちゃんと見やすい、使いやすいということを改めて感じました。また上質な家具にも似て、使っていない時もプロダクトとして美しい。機能を超えた存在感があります。キッチンは、実は“使う時間よりも観る時間の方が長い”と思えば、美しさは重要な要素といえるのではないでしょうか。

素材については、
どう感じられましたか?

ごとくは、黒い南部鉄器を想起させるようなソリッド感で、すごくクールだと思いました。キャスト(鋳物)でできている質実剛健なテクスチャーも、いかにもプロ仕様のような本物感がありますね。

オールブラックのG:LINEを
ご覧いただいていますが、
永山さんはこれまで建築家として
黒という色をどう捉え、
どのように使ってきましたか?

建築においては、色というより「光と闇」といった捉え方をすることの方が多いですね。漆黒の美しさは、日本文化において常に珍重されてきました。「陰影礼賛」の言葉もあるように、闇のような黒さは、古来より憧憬を集めてきたものなのです。

20年ほど前、京都の四条通り沿いに建つルイ・ヴィトンのファサードをデザインした時に、光学フィルムによって光と影が現象として生まれるようにしました。偏光板によってつくり出された黒い縦格子は、実際には存在しない闇であり、質感もありません。表現したのは、まさに闇の黒。それは、私にとっての究極の黒だったと思っています。

私たち建築家はまた、「ブラックアウト」という言葉をよく使います。例えば天井の色を決める時、ブラックアウトによって天井がどこにあるか分からないようにすることで、無限の闇を表現するのです。あるいは、黒が入ると空間が締まって見えるので、そうした効果を見込んで取り入れることもあります。

永山さんご自身も、
黒い服をよく着られると伺いましたが?

黒い服を着ると襟が正されるというか、気持ちが凛とします。フォルムを強調する色でもあるので、フォルムの綺麗な黒い服というのがお気に入りになっています。

「東急歌舞伎町タワー」のホワイエも、
奥行きのある暗闇を感じさせる空間ですね。

はい。ホールのホワイエはかなり黒っぽい空間にして、そこにアルミキャストを使ってシルバーの水しぶきを表現することで、光と影の対比を表現しました。低層部の外装も、アルミキャストを使って青海波という水の模様を表現しています。建物の基礎部分というのは、見た目にもどっしりとさせることが多いのですが、私はレースやニットのように透けて見える外装をイメージして、あえてアルミキャストを使用したのです。

これは実際の「東急歌舞伎町タワー」の外装に使ったアルミキャストです。パターンの違う2つのパネルをランダムに組み合わせているのですが、形状はそれ自体の美しさを求めながら、同時に光がどう当たるかというところからも計算してデザインしています。

設計には、積極的に先端技術を取り入れていらっしゃるのですね。

先端技術は面白いです。こちらは2025年、大阪万博のパビリオンの構造体です。実際は鉄パイプでつくられますが、3Dフォーミングする特殊な機械で曲げていきます。ところてんのような感じなのですが、機械のノズルから、プログラミングに従って、勝手にぐにゃぐにゃ曲がって出てきて、それがもう構造体になっているのです。建築はほぼ完成したので、これから館内をつくっていく段階です。

先端技術とデザインの関係性について、何かG:LINEからも感じるものはありましたか?

きちんと機能を果たしながらも、デザインにおいてはどこまで引いていけるのかというのを考えさせられました。私たちも、日々その落としどころに悩んでいますが、G:LINEはそのバランス感覚に秀でていると感じました。

キッチン空間と料理の関係性について、永山さんはどのように
考えていらっしゃいますか?

最近は、キッチンを中心に住宅設計を考える方が増えていて、キッチンもインテリアとして、家具のように洗練された形にしたいというご要望が多くあります。私自身も、キッチンの設計にはこだわりがあります。アイランド式にして、水回りのシンクと火元を一体にするつくり方もありますが、私はシンクと火元のある台を分けて考えて、コンロは壁向きで、シンクはアイランドにする、というスタイルを多く提案しています。

というのも、料理をしている時は集中したいので、壁を向いている方が私は落ち着くのです。でも、洗い物は周りが見えている状態でしたいから、アイランドスタイルがいい。私自身、母の洗い物を手伝いながら楽しく会話をした幸福な思い出があって、それがイメージの根源になっています。

永山家のキッチンは、
どんなスタイルですか?

我が家は壁向きにシンクとコンロがあり、手前に少し大きな作業台をつくって、子どもと一緒に作業ができるようになっています。よくホームパーティーもやるのですが、私が料理をすべて用意するのではなく、材料を揃えておいて、お客さんたちにも作業台で手伝ってもらうようにしています。私一人では完璧にできないから、みんなで一緒に料理をするシチュエーションをつくった方が楽しいと思って。会話も弾むし、我ながらいいやり方だなと思っています。

笑い声の絶えない
永山家のキッチンが想像できます。
おもてなしのスタイルも、
変化していますよね。

私たちの親の世代だと、お客さんには座ってお待ちいただき、完璧におもてなししなければいけないという考えがあったと思いますが、ホストが必死に準備している姿を見ると、お客さんも緊張するし、なんだか申し訳なく思ってしまうじゃないですか。だから、いっそのことお客さんを巻き込んで一緒に料理した方が、お互いにリラックスできると思います。

永山家にG:LINEを置いたら、どんなシーンが展開されると思いますか?

火力が強いので、中華鍋を振ってみたいですね。でも、重くて私にはできないから、夫に腕を振るってもらいたいと思います(笑)。火力が湧き上がってくるような感じとか、中華鍋を振るカシャンカシャンという音、具材をひっくり返す手の動きなども、ライブ感のあるいい絵になるでしょうね。子どもたちも、見ていてきっと喜ぶはずです。

永山 祐子

1975年、東京生まれ。98年、昭和女子大学生活美学科卒業。青木淳建築計画事務所を経て2002年、永山祐子建築設計設立。20年、武蔵野美術大学客員教授。主な仕事に〈LOUIS VUITTON 京都大丸店〉〈木屋旅館〉〈渋谷西武AB館5F〉〈ドバイ国際博覧会日本館〉〈玉川髙島屋S・C 本館グランパティオ〉〈JINS PARK 前橋〉〈TOKYU KABUKICHO TOWER〉など。現在、東京駅前常盤橋プロジェクト〈TOKYO TORCH〉〈2025年大阪・関西万博パビリオン〉〈ウーマンズパビリオン in collaboration with Cartier〉などの計画が進行中。